オールド楽器、現行楽器、資料楽器、アンティーク楽器など主催者がこれまでに集めた楽器を是非ご覧下さい
マンドリン編
三大銘器メーカー
NEW!
14.エンベルガー -パスクアーレ ペコラーロ
 (Embergher-Pasquale Pecoraro)
 [1907-1992]
クアルティーノ   
Model No.5?
Quartino (Quartini mandolin)
1976年制作
 
長年マンドリンやマンドリン族の名器を探し集めていてどうしても入手できていなかったのが、このクアルティーノです。
以前このホームページに複数、単数ぞれでもいいということで、クアルティーニと呼ぶのが正しいと文献にありましたので、それを記載していたと思いますが、この楽器クアルティーノ専用の弦メーカーにQuartinoと書いてありましたので,それと日本ではこちらが定着していますのでクアルティーノに統一させていただきます。 
 
 
 マンドリンの収集から始まって、マンドラテノール,マンドラコントラルト。マンドロンチェロ、マンドローネ(高調)マンドローネ(低調)、リュートモデルノ、ロンバルディアマンドリン(6弦)、マンドバス(GIBSON)とほぼマンドリン族の楽器を収集しましたが、最後のマンドリン族の一番高音部を受け持つこのクアルティーノだけは、相当探し続けましたが入手できませんでした。
世界中のヴィンテージマンドリンを扱うショップやネットオークションを常に探していたのですが、何しろ今は使われない楽器、ヴィナーチャが発明したとされる当時でもほとんど普及を見なかった楽器です。
 
  ネット上で根気よく探し続けましたがみつからず、ほぼあきらめていましたが、偶然、マンドリン、エンベルガー、ペコラーロの検索で、この楽器を見つけ、国内の楽器商が販売しているのを見つけ、即購入となりました。まさか国内で見つかるとは予想外でした。
 
 国内のマンドリン製作家で受注生産してくれるところがあるのは早い時期からわかっていたのですが、できればイタリアで作られた名器をということで海外にばかり目を向けて探していたの間違い、灯台もと暗しでしょうか、国内楽器商を探せば良かったのですが・・・・・偶然にも国内にあることがわかりこれで、マンドリン族ほぼ全ての楽器が揃ったことになります。
     製作年は1976年製で偶然にも小生が別注で発注したマンドロンチェロと同じ時期の作品で、ペコラーロの亡くなる10数年前、ちょうど一番脂ののりきった頃後半の作品です。ペコラーロのラベルはなぜか制作年度、サインが書かれていません、手鏡と照明を駆使して、サウンドホールから覗くと表面板の裏にサインと制作年が確認できます。確か当時は神戸のロッコーマンが国内の唯一の総代理店だったと記憶しています。ちなみにカラーチェは三好楽器(大阪)というところが総代理店をやっていました。
 
 

  
 マンドリンとクアルティーノの比較(大きい方はクラシコD)スケール物差しは全長60cm



 
マンドリンとのボディーの大きさの比較、2周りぐらいの差があるのがわかります 
 
 クアルティーノ についての考察
  クアルティーノはマンドリン族では一番高い音域を有する楽器で、時折誤ってピッコロ・マンドリンなどと称されますが、ピッコロ・マンドリンという楽器は存在しません。この楽器には正式名称があります。

クアルティーノはマンドリンより4度高い調弦と成り、開放弦でいえばCGDAとなりコントラルトの1オクターブ上、マンドロンセロの2オクターブ上となります。(マンドリンはGDAE、マンドラテノールはそれの一オクターブ下です)

 この楽器が普及しなかったのはその大きさから(マンドリンより一回り以上、小さく作られている)、音量の限界と合奏の基軸となるマンドリン楽器そのものの1世紀半に渉る改良と発展により、高音域の演奏が可能となってきたことと、大合奏に於けるボリュームの出るマンドリンそのものの楽器が登場しはじめて、大合奏で使われ出してきたことで、1本のクアルティーノとの合奏で、大きなホールでは音が通らなくなったこと。
それと何よりこのクアルティーノを使った合奏曲がそれほど作られてこなかったためと考えられます。

 P.Silvestriなどの合奏曲も指定されているこの楽器のパートは今ではマンドリンで十分代用でき、またボリューム面もからもマンドリンの方がソロ演奏には有利です。

特に日本で発展してきたマンドリンの使われ方である、マンドリンオーケストラの大合奏にこの楽器を取り込んでも、大きなホールに響き渡らせるようボリュームを待たない為、あるいはこの楽器の能力限界から、視覚的な効果しか得られないのが現実であったのは否定できません。

 見慣れたマンドリン合奏の中で、その珍しさも手伝ったパフォーマンス的効果を得るには、十分あるのではないかと思いますが?機能面では限界を感じます。
以前、カラーチェの発明したマンドリラ(マンドリンに竪琴を合わせたようなうな楽器、下記写真)を使ったコンチェルトも聴きましたが、視覚効果のパフォーマンス程度で、特に響きがいいとかも感じられず、この楽器も普及しなかった理由がわかります。

それと小さいが故、弦が細い、最近の高品質の弦でもこのクアルティーノ専用の1,2弦となると細くて切れやすく、大きな音を得ようと無理をすると、簡単に切れてしまいます。


 ちなみに、かつて半世紀ぐらい前の頃の弦はマンドリンでもよく切れました・・・・その頃の演奏会では切れた時用のスペア楽器を数本、ステージに並べて演奏会に望むのが当たり前の風景でした。
1st若しくは2ndの一番後ろに置いて、演奏中コンマスなどが切れたら後ろのものが順番に、自分の弾いている楽器を前に送って渡す、渡したものは後ろのものから次の楽器を送ってもらう、というのが演奏中の弦切れのバトン渡しスタイルでした。
本番で結構よく切れたのです。最近の弦は本当に切れなくなってきてます。演奏中弦が切れるという光景すら、たまにしか見られなくなりました。スペア楽器すら置かないでステージに上がり演奏奏に臨む団体もあります。

 以前、鳴り物入りで2本のクアルティーノを使った、マンドリンコンチェルトを聴きに行ったことがありましたが、たまたま1本の楽器の性能が低く、もう一方の楽器に比べて音が通らない、ボリュームが出ない、ホール中央にて聴いていましたが、そんな中でのコンチェルトで1本のクアルティーノしか聞こえてこない、結局片方の楽器しか聞こえなかった、片肺飛行のような状態の合奏になっていました。
これならクラシコAあたりの高音域、大音量の出るマンドリン2本で、コンチェルトをやる方が音域もカバーできますし、ずっと良かったのではと思いました。

 今ではこの楽器は古くからの歴史を有するマンドリン合奏団や伝統ある大学のマンドリンクラブ、個人の収集家の特別なコレクションにしか残っていないのではないかと思います。ネット普及初期の頃、何かのホームページの記事でしたが、日本のマンドリン関係者で、このペコラーロにクアルティーノから始まってマンドロンセロまで発注して、マンドリン族全楽器そろえたという記事を読んだことがあります。(ローネはさすがになかったと記憶していますが・・・)

 探せば日本の収集家の元には、まだまだこの楽器が眠っているのではないかと思います。歴史的にも貴重な楽器です、ぜひ次世代に伝えて、残していっていただきたい楽器の一つかと思います
 
 最後に、この楽器が作られた背景にはヨーロッパにおいて発展してき演奏スタイルと日本では大きく違い、片や室内楽的演奏、日本では大合奏のスタイルにて発展してきたの違いの差が大きいと思われます。

すでわち、ヨーロッパの室内楽を中心にして演奏、発表されてきたマンドリン合奏のスタイルであれば、十分に音量的にもクアルティーノが受け入れられてきたと思います。
約1世紀前にヨーロッパで作曲されてきたイルプレットロ、イルマンドリーノ、イルコンチェルト、ヴィタマンドリニスティカなどのマンドリンオリジナルの出版会社の曲の編成から見てもこれは4~5パート編成、中には3パート編成の曲が大半を占めます。

このことからして日本のような大合奏のマンドリンオーケストラで発展してきた経緯を考えると、この楽器、パートが普及しなかったのは納得いかざるを得ないのです。マンドリラも同じ運命だったこともうなずけます。

この考察はあくまで個人の主観です、参考まで。
 
ラファエレ Raffaele とニコラ Nicola カラーチェの発明したマンドリラ